Bloodly Rose Residence













気付いたら朝だった。
眩しい朝の光がレースのカーテン越しに差し込んでて、チュンチュンと鳴く小鳥の囀りも聞こえ、昨夜の嵐が嘘のような爽やかな朝だった。
カカシは一瞬自分が何処に居るのか分からなかった。
が、「サスケ!!」カカシは横を見た。
そこにはサスケの姿は無かった。

「・・・・・・。」 カカシは昨晩のことを思い出した。
酷い嵐の音になかなか寝付けくことが出来ず、何度も妖しい夢を見た。
その夢の延長のようにサスケが突然現れて。
そのサスケはカカシが思っていたサスケのイメージとはまるで違い、エロティカルで悩ましかった。
今迄数え切れない程、色んな相手と身体を重ねてきたカカシだが昨夜のような強い快楽を感じたことはなかった。

が、妙だ。
自分の夜着はまったく乱れていないし、シーツもなんの乱れも無い。
何よりサスケがカカシに付けた刻印が消えていた。
昨夜、確かにサスケがカカシの首、乳首、脇、腰、足の付け根とカカシ自身も知らなかった性感帯に施した濃密な愛技の痕が見当たらない。
しかし蘇るあの感覚。
情熱的な時。
カカシを誘うように妖艶な笑みを浮かべながらカカシの全身に愛撫を施したサスケ。
そしてカカシは誘われるままサスケを貪った。
吸い付くような肌理細かい白い肌。熟れた果実のようなサスケ自身。何人もが惹きこまれるような紅い目。ふわりと柔らかい、しかし、弾力のある胸の飾り。瑞々しいチェリーの唇。そして、貪欲にカカシを取り込もうとする熱く蕩けたサスケの中。
全てを克明に覚えているのに、その痕跡がまるで見当たらない。
カカシは眉を顰めた。

ふと違和感を感じた。
昨夜となんら変わらない部屋。
朝の明るい日差しが差し込み昨夜の陰鬱とした雰囲気はない。
「!!??」薔薇の花束が枯れていた。
昨夜、鈍い光沢を放って咲き誇っていた薔薇が今は萎れている。
その濃厚な香は残したままで。
カカシがその花弁に手を遣ると無残に散った。
「・・・・・・。」
ここに来て、妙なことばかりが起きる。


カチッ
いきなり壁に掛けてあるバロック調の見事な装飾が施された時計が鳴った。
優雅なラインの針は7時を指している。
浮かぶ違和感を押し留めながら、8時の朝食に間に合うようにカカシは準備を始めた。

やはりサスケに会うかと思うと心が弾み、いつもより入念に身支度をする。
今迄も一夜を共に過ごした相手に“礼儀”として後朝の挨拶は欠かさなかった。
しかし、サスケには純粋に会いたかった。
昨夜の情熱をそのままに愛を囁きたい。
出来ることならあの瞳に合う深紅の薔薇の花束かルビーの指輪、いや、サスケはあんなに美しくても少年だ。小振りのルビーのカフスを贈りたい。
しかし今のカカシは大臣から下った重大な使命を帯びての旅の途中、目ぼしい物を持ち合わせていない。
カカシは帰ったら自分の邸宅がある街で一番の宝石職人にサスケに合うカフスを設えさせようと思った。



準備を終えたカカシが呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉がノックされた。
「おはようございます。昨夜はよくお眠りになられましたか?」昨日の大男が立っていた。
「ああ、よく眠れたよ!!」カカシは乱れたサスケを思い出しながら言った。
またいくつもの部屋を通り過ぎる。
「ここです。」大男が立ち止まった扉の前でカカシはそっと深呼吸をした。

この扉の向こうにサスケがいる。。




オークの重い扉を開けると、そこは40畳くらいのダイニング・ルームだった。
一方に7〜8人は座れそうな細長いテーブルには、上等なリネンのナフキン、銀製のカトラリー、マイセンの皿が並べられ、テーブルの中央には真っ赤な薔薇の花束が活けてあった。
その長いテーブルの向こう側、ホスト席にイタチが優雅に座っていた。まだ年の端は17〜18なのにその存在感の重さは少年のそれではなかい。しなやかな物腰で立ち上がると「おはようございます。カカシ卿、よくお眠りになられましたか?」と隙のない微笑みを浮かべて言った。
「あ、、ああ。」カカシはそう言いながらサスケの姿を無意識に探した。
しかし、サスケの姿はなかった。
カカシは落胆しながらもイタチににっこりと笑い掛けながら「お陰様で。」と答えた。
そのカカシにイタチは一瞬鋭い視線を投げ掛けた。
カカシは勧められたイタチの真正面の席に腰掛けた。薔薇の大きな花束でイタチの表情が隠れた。
「嵐が去って良かったですね。」
「ええ。」カカシは薔薇の香りのする紅茶の入ったカップに手を遣った。
「カカシ卿はお急ぎの旅なのですか?」イタチの白く細い指が銀の華奢なティースプーンを摘むのが見えた。
大臣からの特命を帯びたカカシの任務は重要かつ、機密性が高く、そして急を要した。
カカシが答えようとした瞬間、扉が開いた。



朝の光の中、入って来たサスケはまるで天使のようだった。
光が眩しいのか黒目の勝った目を少し細めながら「遅れまして。」と消え入りそうな声で言った。
「早く座りなさい。」イタチが言うと「はい。」と答えて部屋に入って来た。
細い身体を包む白い絹のブラウスと濃紺のスラックス姿は何処か修道女のような雰囲気を湛えており、汚れを知らない純真無垢な少年という雰囲気だった。昨夜のあの妖艶な雰囲気とは真逆なサスケにカカシは驚きながらも見入ってしまう。
サスケがゆっくりとカカシの方を見た。目が合った瞬間、白い頬が薔薇色に染まった。はにかんだような表情のまま視線を外すその仕草は昨夜の扇情的な表情のサスケとは全く違う人間だった。
その二人を見て、イタチの口の端が歪んだのはカカシには見えなかった。
「カカシ卿。」イタチが呼んだ。
カカシは処女のように恥じらうサスケから目が離せなかった。昨夜のサスケが優美な深紅の薔薇なら今朝のサスケは白い可憐な野薔薇のようだ。
「カカシ卿。」イタチが再び呼んだ。
カカシはハッとなって返事をした。
「悪いお知らせがあります。」やっと自分の方を見たカカシにイタチは気の毒そうな表情を作って言った。
「この薔薇屋敷と森を渡す橋が昨夜の嵐で流れたようです。」
「橋?」カカシが驚いて聞いた。「この屋敷にたどり着く迄に橋など通りませんでしたが?」
イタチは笑顔を浮かべた。「いえ、この屋敷に入るには絶対に橋を通らなければやって来れません。」
「しかし…。」カカシが不審に思った。パックリアンとこの屋敷に辿り着く迄に橋など通らなかった。森の中にも橋はいくつかあったが、小川程度に架かる橋で馬ならなんなく通ることが出来る。無理をすればカカシでも徒歩で通ることが可能な程度の小川だ。
「きっと。」イタチはゆっくりとボイルド・エッグの黄身をすくいながら言った。「嵐と疲労で橋を通られたことをお気づきにならなかったのでしょう。」
「…そんなことは、、。」カカシは言いかけたが、イタチが「カカシ卿、ここで議論をしても始まりませんよ。食後、ご自身で見に行かれてはいかがですか?」と笑った。
カカシはその嘲るような笑いが癪に障ったが「そうします、ありがとう。」笑顔で返した。 ふとサスケを見ると心配そうな表情を浮かべて、兄と自分をチラチラと見ている。カカシはサスケを安心させるようににっこり笑った。途端に真っ赤になって俯くサスケ。やはり昨夜のサスケとはまるで別人のようだった。





カカシは食事を終えるとあの大男の案内で厩に向かった。
その厩には堂々とした馬が数匹繋がられていた。都でもなかなかお目に掛かれないような駿馬達だった。
カカシはその中の芦栗毛の馬を借り受けた。
「この道をただまっすぐ行けば川に出ます。橋は酷く壊れていて復旧には時間が掛かります。」「筏(いかだ)はないのか?」
「ええ。この薔薇屋敷には筏はありません。それを作るのにも職人がおりませんので。。」キサメと呼ばれた大男は言った。
カカシは馬に跨ると手綱を引いた。
言われた通りにまっすぐと馬を走らせた。カカシはいなくなったパックリアンのことを思い出した。無事だといいのだが…。パックリアンは賢い馬だ。きっと無事森を抜けたに違いないと思うことにした。




木々が切れ、光がぱっと差し込んだ途端に目の前に川が広がっていた。
嵐のせいか水かさと激しさを増したような濁流が目の前を流れている。
確かに、少し行った所にある木の橋は無惨に半分以上流されている。
しかし、こんな川を渡った覚えはまったくなかった。いくら疲労困憊で視界の悪い嵐の中でも気付かないわけがない。
カカシは他の道があるかと馬を走らせた。
広大な屋敷の周りをぐるりと巡った。あざみや野苺、柊が雑々と茂った少し荒れた土地を馬をひたすら走らせた。川が常に横手を流れておりイタチが言っていたことが本当だったと悟らされる。再び背の高い木々が見え始め、暗い森の中に入った。カカシは溜息を吐いた。
カカシは昨夜からの奇妙な出来事の数々を思い出した。
腑に落ちないことが多すぎる・・・。
カカシの神経は思惑に集中し、思わず手綱を緩めたその時、突然馬がギャロップを始めた。カカシはすぐに手綱を締めようとしたがその瞬間、人影が馬の前に現れた。
「危ない!!」カカシは思い切り手綱を引いた。馬が後ろ足で立ち上がり、カカシは馬上から投げ出された。咄嗟に受け身を取るが腰を強かに打ち付けた。身体に鋭い痛みが走る。
が、カカシは突然現れた人物を見て驚いて声を上げた。「サスケ!?」
カカシは痛みを忘れサスケに走り寄ると、気を失ったサスケを抱き上げた。
外傷はないようだし、馬がサスケにぶつかった衝撃もない。恐らくショックで気を失っただけだろう。 カカシは安心して慎重にサスケを木陰に運んだ。




カカシはサスケを抱いたまま、木にもたれ掛かるように座った。
そよそよと涼しい風が吹いてサスケの漆黒の髪を梳いた。その寝顔はあどけなく白磁のような肌は艶やかでカカシはその頬をゆっくり撫でた。瑞々しく弾力のある肌は手に吸い付くようだ。紅く濡れた唇は少し開いて、カカシを誘っているかのようだった。
カカシはその唇にそっと口付けた。
甘い感触が広がる。
その瞬間、サスケが目覚めた。
一瞬、状況が理解出来ないのか驚いたような表情でカカシの唇を受け止めていたが、すぐに頬を薔薇色に染めカカシから逃れるように身を捩った。そのサスケを逃さず、カカシは力を入れて抱き締めた。
「サスケ、愛してるよ。」カカシが唇を付けたまま甘い声で呟くと、サスケの身体がビクリを震えた。少し顔を離してサスケの目を見つめる。
潤んだサスケの目は漆黒の夜空に幾万の星が瞬いているような美しい物だった。「サスケ。」カカシが名前を呼ぶとサスケも「カ、、、カシ。」と小さな声でカカシの名を呼んだ。

それからはお互いの情熱を愛情をぶつけるような長く激しく熱いキスに変わった。

「カカシ卿…。」サスケが小さな声で喘いだ。
「カカシで、、いいよ。」カカシが笑うとサスケの頬が朱に染まり俯いた。
俯いたサスケの顎に手を掛け上を向かせると澄んだ瞳が熱を持って潤んでいた。その瞳に誘われるようにカカシはその瑞々しい下唇を少し啄むと再び深くキスをした。
カカシはサスケの華奢な身体を抱き込むように抱えると片手でその肩を支え、片手でサスケの純白のシルクのブラウスの釦をはずし始めた。
「…あっ。。」小さく驚きの声を上げるサスケに「大丈夫だよ。」そう優しく言ってカカシの手はスルリとブラウスの中に忍び込んだ。
絹のブラウスよりも滑らかなその肌の感触は昨夜となんら変わらない。
身体を密着させていると薔薇の花束に包まれているようなその香りも、ピンと張った小さな胸の飾りを指で摘むと「んっ…。」と身体を震わせる敏感なところも。
なんら変わりはない。
が、「ヤ…。」ふいにサスケがイヤイヤするように首を振った。
「どうしたの?」カカシが耳元で囁くとその甘く低い声でさえ刺激になるのか「あ…。」と小さな吐息を漏らして肩を震わせた。
「どうしたの、、サスケ?」あやすように聞いてもカカシにしがみついて首を振るばかりだった。
カカシはサスケの頬を節くれ立った手で挟むと自分の方を向かせた。一瞬視線が合い、サスケは目を逸らすと「…恥ずかしい。。」と小声で言った。

「サスケ!!」カカシは悪戯っぽい笑みを浮かべるとサスケの胸元を一気にはだけさせた。
驚いて両手でブラウスを引き寄せようとする抵抗を許さず、カカシはサスケの両手を掴んで地面に組み敷いた。
「…カ、、カシ…?」突然のカカシの強引な行為にサスケは驚いたような目で見上げた。
「何を今更?サスケ。」カカシの愉悦を含んだ響きにサスケの目がますます見開かれた。
「…え、、何、、を…?」
「昨日はあんなに悦んで、積極的だったじゃない。」カカシはそう言いながらサスケの首筋に唇を当てて軽く噛んだ。
「ヤ…ぁ。。」サスケの身体がびくりと震えた。 「ほら、ここ。。サスケが大好きなトコでしょ?」淡いピンクの薔薇の蕾のような乳首を甘噛みすると「あ…ん。」一際甘い声が上がった。
カカシは昨夜サスケが悦んだ箇所を中心に舌を這わしていく。サスケは甘い息を吐いて快感に酔いしれた表情を浮かべながらもなお抵抗するように首を左右に振り、引き離すように力の入らない腕でカカシを押し戻そうとしている。
「どうしたの今朝は?明るい所だと照れちゃう?」可愛らしい抵抗に笑いを含んだ声で言うと
「ち、、がぁ…う。。」とサスケは高ぶる息の合間に言った。
カカシは「何が違うの?」サスケのスラックスの中に手を滑り込ませながら聞いた。
「オ…レ、、じゃな…い。。…あっん。。」突然最も敏感な部分を握られ、一際甘い声が上がった。
カカシはなおも楽しそうに「昨日と同じトコロに反応してるよ。」指でサスケの先端を挟んで撫でた。「でも、今日の方が声いっぱい聞かせてくれてるけどね。」嬉しそうに言う。
サスケはぎゅっと目を瞑りわななきながら「違う。」と何度も小さく繰り返していた。



カカシの濃密な愛技で蕩けたようになりながら必死に「違う。」と言い続けるサスケにカカシはふと違和感を覚えた。
確かに、敏感な反応も滑らかな肌の感触も薔薇のような香りも昨夜となんら変わりない。
しかし今腕の中にいるサスケと昨夜のサスケでは全く違う所もある。
今抱き締めているサスケは快感に敏感で狂おしく乱れているもののまるで処女のような恥じらいを見せている。昨夜のサスケは妖艶な娼婦のような熟れた態度で積極的だった。
何よりも昨夜お互いに色濃く付けた痕が見当たらない。カカシの身体にもサスケの身体にも貪り合うように付けた痕が二人ともまったく見当たらなかった。
しかし昨夜のあの出来事を夢と言うにはあまりに生々しく、そしてはっきりと五感が覚えている。

カカシは身を起こした。
突然のカカシの行動にサスケは訝しげに見上げるがその目はまだ熱に浮かされたような熱い光が宿っている。「…な、、に?」
カカシもサスケを見つめながら言った。「昨夜、、俺の部屋に来たのは、、、サスケだった…?」
サスケが目を見開いた。
その表情は驚愕とも脅えとも取れる表情が浮かんでいる。
「サスケ…?」今度はカカシが驚く番だった。
サスケは胸を押さえて酷く震え始め、薔薇色に上気していた頬は蝋のように青白くなっている。
「サスケ。。」カカシはサスケをゆっくり起こして肩を抱いた。先程まで熱を持っていた身体は今はもう冷えている。
「サスケ。」もう一度カカシが呼ぶとサスケはいきなりカカシの腕を振り払った。
「どう…した?」
サスケは震える唇をきつく噛むと乱れた衣服を直し始めた。
「サスケ?」
サスケはカカシから目を逸らしたまま小さな声で言った。
「…俺では、、ありません。。カカシ“卿”。。」
そう言うとサスケは立ち上がり、走り去って行った。

最後にカカシを見つめた目は冷え切った黒いサファイアのように硬かった。

カカシは何故かその背中を追うことも出来ずその華奢な背中を見送った。











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words by ナスターシャ・チェブRIKOフ(Strawberry-field)














ROSSO

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